11. 脳とコミュニケーション
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1. 失語症の事例と言語野
人間特有の精神機能としてよく挙げられるものの一つ
人間同士の意思疎通や世代間・地域間の文化伝達の多くが言語機能によって支えられている
話すことはできないが、聞いた言葉は理解することができる
口の筋肉の麻痺などはないにもかかわらず長年にわたってほとんど発話することができず、ただ1種類の言葉「タン」とだけ言えたという人であった
ルボルニュ氏は一週間後に亡くなり、死後剖検の結果、大脳の左半球の前頭葉下部(下前頭回)に古い脳梗塞の跡が見られたが、それ以外の領域には目立った損傷は見いだされなかった 人間にとって話すという重要な機能が、左脳の下前頭回という限局された部分の損傷のみで障害されたことになる 流暢に話すことはできるが、聞いた言葉が理解できない
患者はわけのわからないことを話すので錯乱しているかのように当初は見えたが、よく観察するとたたずまいなどはきちんとしており物体の使い方なども理解できていて、決して錯乱状態ということではなかった ウェルニッケ野からブローカ野への直接経路の他に、ウェルニッケ野からさらに上部の概念中枢を仮定してそこを経由してブローカ野に信号が送られるという経路を加えたものを提唱した これにより、失語の症状の違いにより失語をさらに細分化して理解することが可能であるとした
この図式は20世紀の初頭に重視されたが、どのような言語図式が正しいかは判断できないまま20世紀後半を迎えた
その後この図式に合わない症例を報告した研究グループもあった
当時は患者の生存中に脳損傷部位を特定することは困難で死後剖検まで損傷部位がわからず事例の蓄積が難しかった
話された言葉および書かれた言葉の情報処理経路を示した図式
ゲシュビントはブローカ野・ウェルニッケ野に加えて、頭頂葉の角回および縁上回の重要性を強調した https://gyazo.com/c3b2095b3a5c1a30a855efbd05a333d3
角回や縁上回は人間において他の動物よりも発達している領域であり、またそれらは聴覚入力と視覚入力がどちらも入ってくる領域であって言語一般にとっての重要性が示唆される領域でもある 右利きの場合
左半球病変が97.5%
右半球病変が2.5%
左利きの場合
左半球病変が68.2%
右半球病変が31.8%
つまり、言語機能が左脳に側性化している人の割合が確かに多いが、右脳のほうが言語機能に関して優位な人もいるという点に注意すべきである
てんかんなどの外科治療として脳の一部を切除する必要がある患者において、重要な精神機能である言語能力が脳の摘除によって失われることがあると、治療後の患者の生活に支障をきたすことになりかねない 電気刺激することにより、患者が言い間違いをしたり、数を順番に数えている最中に数字が飛んだり、会話が停止してしまったり、といった現象が生じる脳部位を総合した結果、言語野としてブローカ野にほぼ相当する前言語野と、ウェルニッケ野や角回・縁上回も含むあたりの後言語野を同定した 2. 霊長類動物における言語習得の試み
音声言語を教える試みは成功しなかった。チンパンジーの発声器官の構造がそもそも人間とは異なるとの指摘も後年なされた 1940年代、ヘイズ夫妻はヴィッキーを生後2週間のときに自宅に連れてきて、人間の子供を育てるように積極的にに話しかけた 自発的に人間の言葉を真似しようというような様子はヴィッキーに見られなかったため、生後5ヶ月になったときからオペラント条件づけに基づく音声言語の訓練を始めた ヴィッキーが何らかの発声をしたらミルクを報酬として与えるという条件づけの結果、最初は「アー」という発生をするようになり、さらには唇の形を適切に作るようにした人の指の助けを借りて「ママ」という発声をすることが可能になった ヴィッキーが3歳になるまで得た音声言語は「ママ」「パパ」「カップ」の3語
やはり人の指の助けを借りて「マーマー」と発声するようにはなったが、人間で言う言語習得とは異なると考えられたため実験は中止された
言語の習得過程は人間とチンパンジーは異なるにしても、訓練の結果、何らかのシンボルを介しての意思疎通を相互に行う能力はチンパンジーにも備わっていることが示された 同じく1960年代に図形言語を用いたプリマック夫妻による研究によると、チンパンジーのサラは、様々な品詞の言葉を表す図形言語を訓練され、6歳から10歳までの間に130の語彙を習得し、それらを組み合わせた文章を提示されたときにも理解できた ランバウ(Rumbaugh, D.)らの研究では、言語をシステマティックに作成するため基本的な9つのデザインをまず作っておき、それらを組み合わせたシンボル言語を実験に用いた チンパンジーのラナはシンボル言語を用いて人間と相互コミュニケーションをすることができた 文章を提示されたときに理解するというだけでなく、シンボル言語を用いて自ら文章を作り出すこともできた
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シンボル言語や実際に人間が使っている文字を介して人間とチンパンジーが意思疎通をし、たとえば見せられた物体の数や色や名前をシンボル言語によってアイは正しく答えることができた 3. コミュニケーションと心の理論
言語機能そのものの重要性は言うまでもない
それ以外にも、対話相手の意図を的確に理解できるかという観点からコミュニケーションの生物学的基盤を探ろうとするアプローチが考えられる 自らが運動する場合にも、他者が同じ運動をしているのを観察する場合にも、同様のパターンの神経活動を示す神経細胞 他者の動作を自分に置き換えて理解するための基盤に見えることからミラーニューロンと名付けられ、他者の行為の意味や意図を理解するのに重要な役割を担う可能性が提唱されている
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サルの運動前野の神経細胞活動を記録し、サルが自分の手で物体を握る動作をした時に活動電位の発生頻度が上昇するという神経細胞において、このサル自身は何も運動せずに他個体のサルが物体を握る動作をしているのを観察しているだけのときにも同様の活動が記録された さらに他個体のサルではなく人間が同様の動作をしているところを観察した際にも、この神経細胞は応答を示した
サルにおいてミラーニューロンが見出された脳領域は人間でいうとブローカ野に相当する 人間におけるコミュニケーションの生物学的基盤を探るアプローチのひとつに、コミュニケーション障害を示す人を対象とした脳機能測定を行うものがある 他者が置かれている状況を的確に判断し、その他者ならどう行動するかを判断できるか否かを「心の理論」課題によって調べると、自閉症の場合は課題成功率が定型発達者に比べて低いことが知られている 内容
登場人物であるサリーとアンのうち、サリーがビー玉を自分のカゴに隠した後に外出し、その隙にアンがビー玉を取り出して自分の箱に隠す
サリーが家に戻ったあと、サリーはビー玉を取り出したいと思った時に探そうとするのはカゴの中か箱の中か
定型発達児の場合には言語精神年齢が80ヶ月ほどでほぼ100%正解する(カゴを探すと答える)
自閉症児の場合には同じ言語精神年齢でみた場合の正解率は20%程度とかなり低い
その後、言語精神年齢の上昇にしたがって心の理論課題の正答率も上がっていく
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